暗黒時代は、最初の星がまだ光り始める前の宇宙です。そこに漂う中性水素から届く21cm線を全天平均で測ると、銀河ができる前の密度ゆらぎとダークマターの「冷たさ」が信号に刻まれる可能性があります。
暗黒時代の「灯り」は水素のスピン
中性水素の陽子と電子のスピン状態が変わると、波長21cmの電波が放射・吸収されます。放出の強さは、ガスの密度・温度、宇宙背景放射との温度差、スピン温度に依存します。現在観測する周波数は宇宙膨張で低くなり、暗黒時代の信号は数十MHz付近に移ります。
全天の全方向を平均したものがグローバルシグナルです。個々の銀河を分解する観測とは違い、装置は広い空の平均スペクトルを非常に精密に測る必要があります。
ダークマターの「冷たい・温かい」が構造を変える
冷たいダークマターは、初期宇宙での速度分散が小さく、小さなスケールの密度構造を残しやすいモデルです。温かいダークマターでは粒子がより速く動き、小さな構造がなだらかになります。密度の集まり方が変われば、水素ガスの温度・密度の空間変動、ひいては21cmの周波数スペクトルも変わります。
Kavli IPMUが紹介したシミュレーションでは、グローバルシグナルに電波輝度温度で約1mK級の特徴的な変動が現れ、ダークマターの性質によって変動の仕方が変わることが示されました。これは検出報告ではなく、将来の観測が狙う理論予測です。
月面電波天文台が期待される理由
地球上の数十MHz帯は、電離層の影響やFM放送などの人工電波に悩まされます。月の裏側や月面に電波観測設備を置けば、地球由来の電波ノイズを避け、低周波宇宙観測の窓を開ける可能性があります。月面に置けば自動的に信号が測れるわけではなく、アンテナ、熱環境、データ通信、校正などの技術課題は残ります。
他の観測とどうつながるか
21cm線は、ALMAが見る初期銀河よりも前の時代、最初の星が少ない時代へアクセスします。Euclidや弱レンズが後の構造の地図を作るのに対し、21cm線は構造の種とガスの応答を調べます。銀河回転曲線やCMBの証拠と合わせれば、暗黒物質がどのスケールで構造を作ったかを連続的に検証できます。
候補粒子の観点では、アクシオンに限らず、軽い・温かい・自己相互作用する暗黒物質などのパラメータに感度を持つ可能性があります。